この本は7月8日の朝日新聞の書評欄に柄谷行人が書評を寄せていた。
それが非常に興味深かった。司馬遼太郎的史観へのアンチテーゼだったからだ。
日露戦争までの日本人は、合理的・現実的・普遍的指向であったのに、
以後、日本人は非合理的・非現実的・反普遍的となってしまった。
ゆえに、日露戦争までの日本人のあり方を参照にすべきである、というもの。
- 作者: 片山杜秀
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/05/01
- メディア: 単行本
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日露戦争後、第一次世界大戦に参戦した日本は実に合理的な戦いを行った。
山東半島の青島要塞攻略戦においては、日露戦争の旅順要塞の惨劇を
繰り返さないために軍を近代化し、大量の砲撃を先行させ徹底して歩兵戦を
避け、航空機まで投入し要塞を攻略した。
そう第一次世界大戦までは合理的・現実的・普遍的指向だったのだ。
しかし、欧州での戦いで突きつけられた現実が日本を変えていった。
「現代の戦争は総力戦であり、戦力は経済に比例する。”持たざる国”は
”持てる国”に勝つことができない。・・・・・ 物質力に劣った日本はどうすればよいか?」
第一次大戦後の日本軍は、短期決戦+包囲殲滅戦 という戦法を学んだ。
そして軍内部に二つの派閥が生まれる。
・皇道派(農本ファシスト):精神力で補い、勝てそうな相手とだけ短期決戦を行う。
・統制派(生産力ファシスト):計画経済で日本を”持てる国”に変える。
皇道派、統制派ともに”持てる国”との戦争は拒絶している。
- 作者: 石原莞爾
- 出版社/メーカー: 毎日ワンズ
- 発売日: 2008/04/01
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ご存知のように皇道派は2.26事件で鎮圧され、統制派は満州獲得による”持てる国”を
目指し満州事変を起こすが、明治憲法に基づく体制は、計画経済を強力に統制する権力の
集中を妨げる仕組みであった。(明治憲法を創った”元老”という黒幕のみが権力を集中できた。)
その為、日本においてファシズムはついに未完であった。
皇道派、統制派が政治的に失脚した後には、短期決戦+包囲殲滅戦という戦法だけが受け継がれた。
満州事変以降、日本は”持てる国”との長期戦に突入していったが、
その時には”玉砕”という戦法だけしか残っていなかった。
我々はどこで道を間違えたのか?
従来の認識を大きく考えさせられた1冊。