「アングラの女王」という見出しで李麗仙さんの訃報が流れた。
はじめて李さんを見たのは、大河ドラマ「黄金の日日」(1978)だった。
唐十郎、李麗仙、根津甚八の状況劇場組は、日曜八時のドラマには
子ども心にも異質に映った。
1982年。大学に入学した途端、なぜか芝居をやることになった。
手応えもやる気もないまま半年が過ぎた。もう辞めたいと考えていた時、
その後の人生を変える三本の芝居に出会った。
・つかこうへい事務所「蒲田行進曲」(作演出・つかこうへい)紀伊國屋ホール
そしてもう一本が
・状況劇場「新・二都物語」(作演出・唐十郎)新宿花園神社紅テント
この芝居が実質的な 李麗仙さんの初体験だった。
紅テント内の熱狂と喧騒。
特権的肉体を駆使する役者の迫力。
水しぶきをあげながら走り回るメリーゴーランド。
屋台崩しで現れた花園神社の森と新宿のビル群。
すべてにおいて度肝を抜かれた。
19歳の自分が持っていた”芝居”の概念は、一瞬にして消し飛び
脳みそが必死に、今目の前で起こっていることを把握。理解
しようと務めたが、所詮無理なことだった。
芝居が終わってからも呆然とするしかなかった。
ヒロインは李麗仙だった。
存在感と迫力に圧倒された。やはり女優”という概念が消し飛んだ。
ラストの屋台崩し・・・新宿の夜景と花園神社の木々を背景に
赤い木馬(ペガサス)に跨り飛び去って行く李麗仙の姿は
神々しくも感動的であった。
以降、紅テントで「住み込みの女」「あるタップダンサーの物語」
やPARCO劇場の「黒いチューリップ」などで李さんの芝居を堪能した。
常にヒロインを演じ、まさに「女王」という名が相応しい女優だった。
「アングラの女王」・・・ いいんだか悪いんだか微妙な称号だが、
李さんは間違いなく唯一無二の「アングラの女王」だった。
そして私に大きな刺激と変革を与えてくれた女優だった。
ご冥福をお祈りいたします。 合掌。