大学4年の時、周りの友人達は就職活動に勤しんでいたが、
私は芝居への未練が捨てきれず、パントマイムのワークショップに
通っていた。そして留年が決まった。
大学5年。結局、芝居の道に進むという覚悟はできなかった。
重い腰を上げて就職活動を開始する。第一志望は出版関係。
その為に地元の書店で遅番のアルバイトも始めた。
※このご縁が30数年後にまた結びつくことになるとは・・・
就職活動の中で、1冊の本に出合った。
「ハンズ現象」 東京マーケティング協会:著
とにかく目からウロコが落ち続けた。
これでもかこれでもかと目からウロコが落ちた。
・東急ハンズ「手づくり商法の秘密」 (評言社 1986年)
・ハンズ現象―東急ハンズからモノ=コト社会を読む (エム・アイ・エー 1986年)
何回もこの本を読み返した。
ニーズ(必要性)をウォンツ(欲求性)に変換する装置=ハンズ。
・・・なるほど、参りました。
渋谷の迷宮(スキップフロア)のような空間全体が
ニーズをウォンツに変換する装置 ⇒ 舞台空間だったのか。
無性にハンズで働きたくなり、関連書を読み漁った。
ニーズのバラエティの中にウォンツが潜む。
⇒「手の復権」「クリエイティブ・ライフ・ストア」
無限に増殖する選択欲求に応える。
ハンズはニーズ商品を買うことをもウォンツ化する。
プロダクティブなハンズ VS 観念的な有楽町西武。
ハンズは完成品も木材もモチーフ(素材)化する。
関連書を読め読むほど、ハンズの可能性が輝いてきた。
何回も渋谷ハンズへ行っては、スキップフロアを隈なく見て歩いた。
そして求人に応募した。
人事部の方は全員カジュアルなポロシャツで、自由でクリエイティブな
企業カルチャーが匂ってきた。ハンズが、東急不動産の遊休地活用
新規事業として浜野安広さんの提案で始まったことを初めて知った。
浜野安広さんか・・・どうりで最先端カルチャーの臭いがプンプンしている。
これは楽しそうだな~と思った。
入社試験では課題が出された。
1.ハンズのポスターを作ってください
2.ハンズの折込チラシを作ってください
3.ハンズの新聞広告を作ってください
この中から一つ選び作品をプレゼンしてください
というものだった。当時の就職試験としてはかなり異色だった。
入社試験で提出した作品(折込チラシ)
「麗しのアンティーク ライフ」
ハンズが食品スーパーと同じように、商品の羅列と価格訴求を
主眼とする折込チラシを作ってどうするんですか?
ハンズはモノではなくてコト(ウォンツ)を売るのです。
その為の折込チラシにしなくてはいけないんです。
1950年代から60年代前半。人々はアメリカのホームドラマの中の家電に驚き
目を輝かせ憧れを抱いた。その後、自分の家にカラーテレビが、クルマが、
クーラーが、ラジカセがやってきた時、家中の人が新鮮な喜びに溢れたことを
覚えているだろうか。新しいモノにふれる際の、あの新鮮なワクワク感を
今忘れてしまっていないか?
「麗しのアンティークライフ」
ハンズには、あのワクワク感が溢れています。
当時流行りのコピーライターを真似して、こんなことを偉そうに
プレゼンした記憶がある。
お陰様で内定を頂いた。
結局、最後まで出版かハンズかと迷いに迷ったが、出版の道を選んだ。
カインズのハンズ買収記事が、30年前の就職活動を思い出すきっかけとなった。
今のハンズと30年前のハンズでは実態も環境も大きく異なるが、
名前だけは不変だ。
「手の復権」「クリエイティブ・ライフ・ストアー」
この名前は変えないで欲しいな~(東急は取ってもいいけど)