ヒロミさんの思い出 その5 (文責:IKUさん)
夕方ちかくに、突然、ヒロミさんから電話があった。
「会社、辞めてきた」
「えっ、どうしたの! 何があったの!」
矢継ぎ早に言葉を重ねる私に「いいから、今夜話すから」と。
居酒屋でヒロミさんと話した内容は、細かくは覚えてはいません。
が、ヒロミさんにしては、抽象的なことを言っていました。
ヒロミさんは法令出版というお堅い会社に勤務してました。
おそらく、営業で公的な場所を回っていたのでしょう。
「小学校を回った時、校庭で砂が風で舞ったんだよ。
その砂が竜巻みたいになって空に上がっていくのを見て、
ああ、ここは俺がいる場所じゃないと思ったんだよ」
珍しく思い詰めた、そして、もう決意は変わらない、
という顔をしていたので、私は黙って酒を注ぎました。