Makotsu Garage

本と映像と音楽の記録(ガレージ)

吉村昭 総員起シ(新装版)

文春文庫の新刊で吉村昭・・・なぜ?

そのこころは「新装版 文字が大きくなりました」。

読んでいる作品だけど、つい新装版を購入して読みはじめる。


その力強く緻密な文体に、引き込まれるように読了した。



新装版 総員起シ (文春文庫)

新装版 総員起シ (文春文庫)


・戦争末期、北海道の漁村に多くの日本兵の水死体が打ち上げられた。

 死体を収容していた漁師たちは奇妙なことに気づいた。

 死体の半数近くは腕がないのだ・・・

 戦後20年経っても漁師たちはその真相を語ろうとしなかった。
 「憲兵に口止めされているから」という理由で。 (作品「海の柩」)


・8月15日の終戦後も樺太ではソ連軍と戦闘が続き、避難民の中で

 真岡郵便電信局事件をはじめとする多くの悲劇が生まれた。

 塔路町南東の王子製紙系の炭坑町”大平”の大平炭坑病院でも

 女性看護師が集団自決を図った。奇跡的に生き残った看護師たちは

 戦後もその事実を決して語ろうとはしなかった。 (作品「手首の記憶」)

 


昭和19年6月、急速潜航訓練中に不幸な事故によって沈没し、

 102名を乗せたまま鉄製の柩と化した「伊号第三十三潜水艦」。

 戦後9年の歳月を経て引揚げられた艦内の一室からは、

 生けるが如くの13名の遺体が発見された。

 (作品「総員起シ」)


上記を含め5つの短編(戦史小説)は、日本領土内で人々が接した戦争を

忠実に描いたものでる。その重さにも胸が締め付けられる・・・。