Makotsu Garage

本と映像と音楽の記録(ガレージ)

新・ドキュメント太平洋戦争 エゴ・ドキュメント 

 

NHKで放送されている「新・ドキュメント太平洋戦争」は

5年がかりのプロジェクトで、戦争の時代を生きた人々の日記や手記

「エゴ・ドキュメント」から、1年ごとに歴史を追体験するシリーズ。

 

この今注目されている「エゴ・ドキュメント」という手法は難しいと思う。

マクロに歴史をとらえると大きな時代の流れや過ちはわかるが、痛みは

伝わらない。一方でミクロに捉えすぎると痛みは伝わるが歴史の流れが

見えにくくなる。両者の塩梅が番組成否のキモになる。

 

その点、ドキュメンタリーでは百戦錬磨のNHK

15日放送の「1944 絶望の空の下で」は心の底まで響いた。

 

 


サイパン精糖会社に勤めていた一家。

14歳の少女は毎日自転車でサイパン高等女学校に通っていた。

平和で美しい南国の生活は楽しく幸せであった。

ある日、突然米軍機の空襲がはじまる。

 

アメリカ側は日本本土を爆撃可能な基地を設営する為の

戦略上重要な上陸作戦。一方の日本側はここを失えば本土空襲が

現実となることを認識した上での「絶対国防圏死守」。

両者は平和な南国の島で相まみえた。

 

やがて絶え間ない爆撃、艦砲射撃の後に米軍が上陸した。

少女一家はジャングルへ逃げ込み、米軍に追われ島北部への逃避行が

始まった。この年のサイパン島は雨が少なかった。

水を汲みに行った際には母親が撃たれ亡くなった。逃げ込んだ洞窟が

爆撃され父親が亡くなった。少女は米軍に保護され終戦後に帰国した。

 

少女は内地で結婚し多くの子、孫に恵まれた。2023年に亡くなり前に

書いた手記では「またお母様とサイパン島の砂浜で月を眺めたいね」

・・・いじらしくも悲しい、悲しすぎる。

 

 

別の手記は、勤労奉仕に動員された19歳の女学生。

当初の日記にはピアノを弾いて出征兵士を見送った。今日はツーピースの服を

着ていった等、女学生らしい記述が多かったが、やがて工場が24時間交代制の

臨戦態勢に入るとそんな記述も少なくなっていった。

 

少女が働いていたのは中島飛行機武蔵工場。日本の軍用機開発の中心であり

アメリカ軍の戦略爆撃目標のトップだった。最初は空襲警報が鳴っても

爆弾は落ちなかった。それに慣れて心の油断もあった。

その飛行機は爆撃目標を精査する為の写真偵察機だったのだ。やがてサイパン島

飛び立ったB29による爆撃が始まった。真っ先に狙われたのは中島飛行機武蔵工場。

 

その日、女学生は友人と食堂で昼食を食べていた。空襲警報が鳴り防空壕へ急ぐ

友人は出遅れ女学生が先に防空壕に入った。そこに爆弾が直撃した。友人が

見たのは防空頭巾をかぶった女学生の亡骸だった。

先生が口元に紅をさしてあげた。美しいお顔だった・・・

 

百人百様、千人千様、万人万様の戦争がある。

追体験することを忘れてはいけない・・・と毎年この時期に想う。